2025年11月14日金曜日

夜は暗く

CareNetのニュース一覧で、

「夜間照明が心疾患リスク上昇に影響」

というのがあったので(2025/11/14付)、ちょっとその論文を見てみた。


Windred DP, et al. Light Exposure at Night and Cardiovascular Disease Incidence. JAMA Netw Open. 2025 Oct 1;8(10):e2539031. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2025.39031. PMID: 41129148; PMCID: PMC12550636.

PubMed


この論文のabstractを簡単にまとめると、こんな感じ↓↓


夜間の光曝露(夜、明るい環境で過ごすこと)は体内時計(概日リズム)を乱し、心血管系に悪影響を及ぼす可能性があることが知られているが、具体的にどのように心血管疾患と関連するかについての詳細は知られていない。

今回、日中および夜間の光暴露と心血管疾患発症との関連、およびそれが遺伝的素因、性別、年齢によって異なるかどうかについて検討した。

方法:前向きコホート研究

2013年6月〜2022年11月(約9.5年)の間、英国の UK Biobank に登録され、光センサー(手首式)を装着した参加者の心血管疾患の発症を解析した。

光曝露については、各参加者が装着した手首型の光センサーに記録された1週間分の日中および夜間のデータを記録し(合計で約1,300万時間分)、曝露された光の多さにより%順位(0–50、51–70、71–90、91–100)(パーセンタイル)に層別化した。

また、参加者の光量計測後における冠動脈疾患、心筋梗塞、心不全、心房細動、脳卒中の発症データをNHS(英国国民保健サービス)の記録から取得し、ハザード比(HR)を用いて、最も光曝露が少なかった(夜が暗かった)群(0-50パーセンタイル)を基準とし、光量が多かった(最も明るかった)群(91-100パーセンタイル)との比較を行った。

結果:

88,905 人(平均年齢約62.4歳(40代-70代)、女性56.9%)が本研究に参加。

夜間に最も光を浴びなかった群(0〜50パーセンタイル)を基準とすると、夜間光曝露が多い人では、さまざまな心血管疾患リスクが 有意に高かった:

  * 冠動脈疾患(adjusted HR ≈ 1.32)

  * 心筋梗塞(adjusted HR ≈ 1.47)

  * 心不全(adjusted HR ≈ 1.56)

  * 心房細動(adjusted HR ≈ 1.32)

  * 脳卒中(adjusted HR ≈ 1.28)

これらの関連性は、運動量・喫煙・飲酒・食事・睡眠時間・社会経済的地位・遺伝的リスクなどを調整してもほぼ維持された。

性別・年齢による違いはあり、例えば女性では心不全・冠動脈疾患との関連がより強く、より若い年齢では心不全・心房細動との関連が比較的強いと傾向がみられた。

以上より、

夜間に明るい環境で過ごすこと(夜間に光曝露が多いこと)は、40歳以上の成人において、複数の心血管疾患を発症するリスクを高める 独立した因子である可能性が示された。

限界としては、光センサーが手首だけで1週間の測定であること(長期的な光曝露については不明)、また観察研究であるため因果関係は明らかではないこと、などがある。


Discussionでは、夜間の光曝露が心血管疾患を増加させるメカニズムとして、以下の可能性が挙げられている:

該日リズムの破綻は
1.糖代謝異常や2型糖尿病との強い関連があり、血管内皮細胞の機能異常や動脈硬化のリスク因子となる
2. 血液凝固を亢進させ、血栓やそれによる虚血を引き起こす
3. 血圧を上昇させる
4. 不整脈を増加させる

今回の研究結果は、これまでのさまざまな研究報告と合致する知見であると言える。

もちろんどうしても夜に明るいところで過ごさなければならない方々もおられるので、
まずはこういったリスクがあることを把握し、そのリスクを少しでも減らせるよう対策を取ることが、個人的にも産業医学的にも重要であると思われる。


夜、煌々と輝く光を浴びることは、できれば少なくしましょう。








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