先日の記事で書いたところであるが、個人的に今ちょっと奈良時代がマイブームである。
実はその後、「藤原仲麻呂」を読んだ。
権力の絶頂に達しながら、最後は一族もろとも惨殺された藤原仲麻呂(恵美押勝)。
この時代における天然痘などの感染症の跋扈、天皇の権力、また権力から外れたものの末路など非常に興味深く読んだ(おすすめ)のであるが、
続いて、今度はこちらの小説を。
澤田瞳子:孤鷹の天 上・下(徳間文庫)
著者は、奈良仏教史を専門に修め、この作品が作家デビュー作(第17回中山義秀文学賞受賞受賞)。ということで、同時代の政治体制から教育、風俗に至るまで、史実と空想を巧みに、そして緻密に織り合わせ、現代風の青春活劇のようなキャラクター造形も取り込んだ大作である。
主人公は、遣唐使として唐に渡ったまま帰国できない(これは史実)藤原清河の娘、広子。
そして清河家に仕えていた若者、高向斐麻呂(たかむくのいまろ)。
斐麻呂は広子のために、唐について学ぶため、大学寮に入寮。そこで知り合った個性的な先輩や同輩・後輩、そして教育に情熱を傾ける教師たち。そんな中、斐麻呂は偶然知り合った奴婢の赤土に、自分も学びたいと告げられ、禁じられている大学寮に赤土を招こうとする。
しかし、藤原家・藤原仲麻呂および大炊王の勢力と、道鏡を寵愛する阿倍(孝謙)上皇らの勢力との争いは激化し、それに大学寮も巻き込まれていき、そして・・・
という波乱万丈の物語。
同時に読んでいたこの本(こちらは徳川の時代)では語り言葉でその時代が描かれていたので、まるで自分も宮中にいるようであったが、
奈良時代を描く本書では文体は固く(勅や論語、漢詩の引用など、漢字が多いこともある)、比べてみるとその時代、というか対立する両方の陣営の様相を俯瞰的に、また時系列的に眺めているような感覚である。
自分に知識がないので、どこまでが史実として確認されていて、どこからが想像なのか詳細にはわからないが、この時代の事務仕事のありようとか、大学での試験、居酒屋(!?)の様子など、細かい描写が興味深かった。
学問への意欲に燃え、友情で結ばれ、前途洋々に見えた若者たちが、時代の荒波に飲み込まれて、大学寮ともども運命が狂わされていくところは読んでいて辛い。また、「そんなのありか!?」と思ってしまうところも時々。
しかし最後まで読んでいくと、そんな中でも一筋(ほんの一筋だが)の明るさが見えてくるようだ。
(個人的には、なんだかんだ言っても教師も学生も学ぶこと、教育することに心を燃やし、それに集中できた体制がうらやましく思った。かなわぬ思いではあるが)
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