2024年5月4日土曜日

「アルツハイマー征服」


先日、内科学会の認知症の講演でこの本が紹介されていたので、早速入手して読んでみた。

「アルツハイマー征服」下山進著、KADOKAWA, 2021 


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アルツハイマー征服 (角川文庫) [ 下山 進 ]
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著者の下山氏はノンフィクション作家で、「アルツハイマー病の研究の歴史について、2000年代から興味を持」っていたそうだ(カバーの著者紹介より)。

この本では、青森県の家族性アルツハイマーの家系を紹介するプロローグから、アリセプト(ドネペジル)開発、そして期待の新薬(になるはずだった)アデュカヌマブのFDA承認申請まで、製薬会社エーザイの努力と苦闘を中心に、研究開発や治験に関わった多くの人の足跡が記されている。

長編だが、わりと一気読みしてしまった。

ここまで内部事情を(しかも悪口っぽく見えたりすることを)書いて良いん・・?と思ったりもしたが、製薬会社の精鋭が研究開発に取り組む様子にはいつも尊敬の念を抱いているので(不肖私、薬学部での講義もたまにさせていただいているので、薬学生の皆さんも応援しています!)興味深かったし、

何より、文中で紹介される、"アルツハイマー治療薬の開発に関わりながら自身がアルツハイマー型認知症を発症した研究者"の話が、年代的にも身に迫って怖かった。私も認知症を発症するかもしれない、いやもうすでにMCI(軽度認知障害)に該当しているかもしれない、という不安を実は持っている。認知症は誰にとっても、高齢社会の我が国では人ごとではないのです(COVID-19の後遺症で認知機能障害のリスクが上がると報告されているから、これから増えるのではないだろうかとも・・)。



認知症診療は現在進行形で世界中の患者・家族、医療・介護関係者、そして医療経済に関わる人々がまさに直面し続けている課題である。この本で書かれているのは2020年頃までの状況で、周知の通り、本の終章で描かれ、華々しい期待を背負うかと思われたアデュカヌマブは、その後バイオジェンでの研究販売が中止となり、日本では承認されなかった。


その後、同様のメカニズムを持つ抗体医薬レカネマブが承認され、最近、実際の投与が各地で始まっている。しかしこの薬剤も複数の課題を抱えており、「認知症の特効薬!」とは決していかない状況である(以前、発売開始直後くらいに、同僚の脳神経内科のU先生に意見を伺ったが、なかなか難しい表情をしておられた)。


しかし認知症の早期発見(予防)と治療は、あらゆる面でこれからの日本の喫緊の課題であることは間違いなく、

そのためには医療福祉、製薬(をささえる行政や立法)など、少子化対策と並んで資源をつぎ込む必要があるのだろう。

アデュカヌマブ以後の続編を、そしてそこに明るい道筋が書かれることを期待したいと思う。



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