新国立劇場オペラ研修所の修了公演に行ってきた。
今年の演目はプーランクの「カルメル会修道女の対話」。
なかなかレアな、貴重な公演である。今回、この研修所公演の情報を知ってすぐチケットを手配したのであった。
しかし主役の修道女、怖がりで神経質な元侯爵令嬢のブランシュは架空の人物として設定されている。
史実によれば、1794年7月17日、修道女たちはパリに移送される間、野次馬からあざけられ、物を投げつけられながらも、聖歌を歌っていたという。そして処刑場に着くと、一人また一人と、聖歌を歌いながらギロチンに近づき、処刑されるまで歌っていたという(wikipediaより)。パリが血に染まった時代。
オペラではしかし、「処刑」に至るまでのブランシュの繊細な心の動き、そして修道とは何か、死とは何か、といった重層的なテーマが提示される。
ブランシュの修道院への入会を認めた院長は、病魔に侵されている。
「死」が近づく中で、修練してきたはずの院長の心には恐れとおののき、錯乱などが現れる。この描写も秀逸で(臨床的にもさもありなんと思えたりする)、宗教心とは、死と立ち向かうとはどのようなことか、緊張感のある旋律と歌詞もあって観るものの心に問うてくる。
そして、革命の中で吹き荒れる暴力。
家族でありながら別れるしかない苦しみ。
司祭も修道女も排除され、修道院は破壊され、人間としての尊厳が奪われていく、そんな時代の空気の中、やがて修道女たちに死の宣告が。
ブランシュは恐れ、ひとり抜け出すが・・・
暗い舞台に赤い血のイメージが灯る。
聖歌を歌いながら、あたかもキリストに倣うかのように、天に上げられるかのように・・一人一人処刑されていく修道女たち。
そしてそこに現れるブランシュ。
今回の演出はシュテファン・グレーグラー氏。
舞台に向かって手前から奥への動線が中心となる回転式のセット。
そして上から下りてくる布やロープ。
暗くて奥の方が見えづらかったり、座席の位置によっては見切れないのかな・・などとも思ったりしたが、2時間半の舞台、時間も場所も、そして心象も、暗い照明の中でしかし鮮やかに変化する演出であったように思う。
そして、
なんといってもやはり、今回演じた研修生の皆様。そして賛助出演の皆様。
表現豊かで素晴らしかったです。
3月2日(土)はこの日限りの座組で、ブランシュは大阪音大・院出身の野口真湖さん(ソプラノ)。マリー修道女長は東京藝大・院出身の後藤真菜美さん(メゾソプラノ)。コンスタンス修道女は東京藝大卒・大阪音大院出身の谷菜々子さん(ソプラノ)。表現も声量も豊かで素晴らしい出来だったと思います。今後が楽しみです。
そして、話としては暗くて衝撃的なのだけれど、人間としての心に迫るような、さまざまな哲学的課題を考えさせられ、
一方でドラマチックかつバラエティに富んだ旋律と多彩な音(最後にはギロチンの音(?)まで!)とソプラノやメゾを堪能できるこの作品、なかなか気に入ったというか。
めったに演奏されないかとは思うけれど、また機会があれば観に行きたい。
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