2023年2月10日金曜日

職場のハラスメント

嘱託産業医として伺っている事業所で、衛生講話として「ハラスメント」についての話をしてほしいとの希望をいただいた。
準備する中で、職場のハラスメントというと「パワーハラスメント」のみ説明しているような資料が多く、もう少し幅広いハラスメントについて述べている資料をということで、この本を読んでみた。

大和田 敢太 著:職場のハラスメント なぜ起こり、どう対処すべきか (中公新書) 

この「オビ」のコピー、結構インパクトないですか? 
「オフィスは理不尽のままでいいのか」・・・

あなたの勤務先ではいかがですか?


もちろんオフィス、というか各職場では、理不尽がまかり通っていることの方が多いであろう。
もちろん、誰がどんなことを「理不尽」と思うのか、またAさんの理不尽とBさんの理不尽とは違うのかなど、考えるべき点はいろいろであろうが。

本書は、世界各国の労働に関する法整備を研究してきた法学者であって、また民間団体でのハラスメント相談にも長くかかわってきた著者が、我が国でのハラスメントの事例やその背景にある社会問題、また諸国での「ハラスメント」に対する対応策を詳細に説明し、今後我々がハラスメントに対してどう対処していくべきかまでを丹念に述べた一冊である。

職場のいじめの問題は、従来、当事者間のトラブルやコミュニケーション不調などの個人的な問題として捉えられる傾向にあった。(中略)しかし、ハラスメント概念の普及が職場のいじめを個人のトラブルとする見方を解放したのだ。いじめ問題は個人の問題ではなく、企業経営上の課題であり、構造的な問題であるという考え方が広まってきている。(以上引用)

つまり、そこで起こっている「いじめ」を、個人の問題ではなく、職場の問題として捉える動きが「職場のハラスメント」としての捉え方なのである。そのような事案が起こっていること、そしてそれをどう認識し、どう対処するのか、もしくは放置するのかということは、個人ではなく同僚、上司、部下、そして職場全体の問題なのだ。


本書では日本での、職場におけるほぼあらゆるタイプのハラスメントの過去事例や判例が紹介されているのだが、その結果として自殺に追い込まれた労働者が、職種問わず多いのを改めて痛感する。ハラスメントの果てに亡くなられた方々が、昨今の法改正や各種のキャンペーンによる労働環境の改善のための教訓を遺して下さったと思うが、それにしても辛い。

一方、最近は、〇〇ハラスメントという言葉が乱立(?)しているように見え、言葉の軽さに本質が見失われかねないのではないかという危惧が生じているが、著者はその点について、個別の事案を包括的に「ハラスメント」と表現すること、また国際学会で一般化しているという「ワーク・ハラスメント」という用語を使うことなどを提案している。

不肖私もこれまでに産業医として、高ストレス者面談での聞き取りを介し、あるいはハラスメントに関わる現場に立ち会い、そこで扱われている問題が果たしてハラスメントなのかどうかという議論にも加わったことがある。
「ハラスメント」の認定はとても難しい。それは当然であり、ハラスメントであると認められれば、今度は加害者の方が追い込まれ、会社にも甚大な影響が出ることになりかねないので、慎重に判断すべきなのである。
しかし、ハラスメントに気づき、あるいは対応すべき立場の方が、ハラスメントとは何かを理解していないケースもあり、例えばハラスメントをしていると疑われている方がハラスメント相談窓口の係になっているという例も聞いたことがある。

「そんなつもりはなかった」とか、「ただふざけただけ」、「親切心でやった」、「指導のためだった」、「相手も別に気にしていないようだった」などの言い訳は、ハラスメントを免除する条件にはならない。
また、加害者本人が気づいていなくても、ハラスメントは成立しうる。

(前略)ハラスメント行為者はハラスメントする意図はなかったとして責任を免れることはできない。(以上引用)




ということでいろいろ資料を準備して、このたび衛生講話として「ハラスメント」をお話してきたのであった。某社の皆様、熱心に聞いて下さってありがとうございました。

職場で、これは辛い・・ひどい・・・無理だ・・とか、
あるいは、あの人は最近ちょっと元気がないのではないか?とか、
心配があれば、信頼のおける上司、同僚、それが難しければ産業保健職や産業医、
もしくは、厚労省委託事業の「ハラスメント悩み相談室」(下記リンク)など、
まずは誰かに、話を聞いてもらって下さいね。


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