糖尿病や肥満症で治療に用いられる薬剤を、
糖尿病でもなく肥満でもない人が、
「美容のため」に使っているケースによく出会う。
そういう方々は、自由診療で入手しているそういった薬のことを、保険診療の健診や受診の際、申告して下さらないことが多い。
しかし医師や看護師は気づいているので、
伺ってみると初めて、「オンラインのクリニックでもらいました」などと言われる感じである。
(薬を「もらう」という表現についての違和感は、ここでは述べないでおく)
この(いわゆるメディカルダイエットといった)問題については以前にも書いたような気がするし、これを取り上げ始めると一部の無責任な医療関係者に腹が立ったりするのでここではこれ以上触れずにおくけれど、
そんな中で、こんなニュース記事が目についた。
セマグルチドで非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)のリスク上昇の可能性
Cai CX, Hribar M, et al. Semaglutide and Nonarteritic Anterior Ischemic Optic Neuropathy. JAMA Ophthalmol. 2025 Feb 20:e246555. doi: 10.1001/jamaophthalmol.2024.6555. Epub ahead of print. PMID: 39976940; PMCID: PMC11843465.
セマグルチドは、糖尿病治療薬の一種であるGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)のひとつ。
インスリン分泌を刺激することから2型糖尿病の血糖コントロールに有効であるとともに、食欲抑制などの作用のため減量効果もあり、肥満症の治療にも用いられる、重要な薬である。
ただし、セマグルチド使用と非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)との関連がかねてより疑われたりしており、その関連を否定する論文もあるものの、いまだ課題を残す形となっている。
本研究は、この問題についての後方視的な検討であり、14件のデータベースを用いた大規模な研究。
新たにセマグルチドを処方された約81万人を含む、3710万人(!)の2型糖尿病患者が対象。
セマグルチドと、セマグルチド以外の血糖降下薬との比較、さらには同じ患者で、セマグルチドもしくはそれ以外とを処方されていた時期での比較により、NAIONのリスクについて検討したものである。
その結果(詳細な図表は原文をご覧下さい)、
結論としては、
セマグルチドを使用した2型糖尿病患者においては、過去の報告にあったほどの頻度ではなかったものの、他の(GLP-1受容体作動薬ではない)糖尿病治療薬を用いた群、もしくはセマグルチドを使用しなかった場合と比較して、わずかにNAIONの頻度が上昇していた。
セマグルチドによる視神経病変への影響について、詳細なメカニズムは現在不明。
セマグルチド以外のGLP-1RAについては明らかではないが、やはりNAIONリスクを上昇させることを示唆するデータも得られたとされている。
今回の研究からは、セマグルチドに関連すると考えられるNAIONのリスク自体は低頻度であると言える。またこれも最近、この関連を否定する論文も出ている(参考:Chou et al, Ophthalmology . 2025)。しかし今回の論文は非常に大規模なサンプルを用いての検討の結果であり、また個人的要因によるリスクの差の可能性や薬剤の長期使用の影響なども含め、今後も注視していくべき問題であろうと思われる。
なお今回は、実際に糖代謝異常を有している2型糖尿病患者群での検討であったが、
血糖も体重も正常で本来健康な人が、生活習慣やほかの心身の状態などについて十分な注意やフォローもないまま、「ダイエット薬」を簡単に買って自分のからだに使うことは、
「キレイになる」どころか、深刻な眼疾患を含む未知のリスクを自分で背負う可能性もあるのだということを、できれば意識していただければと思う。
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