2023年6月6日火曜日

「安楽死」について

思いがけず、宮下洋一さんの講演を聞く機会を得た。

長年欧米に在住し、安楽死についてのドキュメンタリーなどを発表してこられたジャーナリストだ。

日本旅行医学会にて「安らかな死とは何か(世界の安楽死現場を訪ねて)」という講演をなさっていたのを、聴講することができたのである。




これはテーマからして、医療職である私には重いと予想し、なんとなく居住まいを正して聴講開始したのであったが、


やはり、現場を見、"その場"に立ち会ってきた方のお話は、短いエピソードでも深く突き刺さるものがあった。


安楽死と言われているものには2種類があり、
一つは、いわゆる安楽死、あるいは「積極的安楽死」。医師が、死を希望する人に毒物を投与して死に至らしめるもの。
もう一つは、自殺幇助。これにも2種類があり、一つは、死を希望する人が自ら、毒物を混ぜた水を飲む(少ないながら、あえてこちらを希望する人もいるそうだ)。もう一つは、毒物を点滴するもの、ということである。

安楽死が合法化されている国はいくつもあるが、今回の話では、その中でも歴史(?)があり、かつ、外国人も受け入れている(とは言っても実際に行って希望を遂げることはかなり難しいということであった)スイスの事例が紹介されていた。

安楽死が可能になる条件としてはさまざまなものが挙げられていたが、特に重要なポイントとして、

・周囲から影響を受けていないこと
・家族に自殺幇助を報告してあること

などがあり、これらが不十分だと、トラブルや訴訟のもとになるというのは、我々にも想像しやすいように思った。

スイスのある団体での安楽死の実際として、
数日前から現地のホテルに入り、さまざまな確認ののち、当日は早朝に実行施設に向かう、ということが紹介されていた。

なぜ早朝かというと、午後になると気が変わるかもしれないからなのだそうで、
宮川さんとしては違和感のある部分(関係者と議論したそうだ)とのことであった。
「気が変わって中止してもいいではないか」というのが宮川さんの意見であったそうだが(私もそう思った)、気が変わるような人は何度も同じことになるから、最初に思ったときに実行すべき、ということなのだそうだ。

そして、実際に安楽死を実行する部分。
実行者が警察に罪に問われないような仕組みとなっている。


外国から安楽死を望んでスイスに来た方は、その後火葬され、灰になって帰るのだそうだ。


安楽死を望む人のパターンとして多いのは4W[wealthy, well-educated, worried, white]
だそうだが、

・子供がいない
・サポートがない

というのも重要なポイントだとのこと。

そして、以前は多くの希望者ががん患者だったそうだが、最近では、「高齢による複合疾患」が増え、がん患者を上回ったのだという。

少子高齢化が進む日本でも、今後希望者は増えるかもしれない、と予測されていた。



しかし、

「安楽死」「尊厳死」「緩和ケア」

この違いを改めて認識してみると、我々には、もう少し他に、取るべき手段があるのではないかとも議論されていた。

さらに、講演後のディスカッションの中で、宮川さんが述べておられたことは、

日本人と欧米人の「幸福観」の違いについてであった。

日本人(アジア人)は、個人の幸せがすなわち「幸せ」ではないが、
欧米人は、個人の幸せ=幸せ。

つまり、

欧米人は、自分が死んだらそれで完結。自由はあるが「冷たい」世界であり、
さらに、近年では宗教離れが進んでいることも、自殺や安楽死が増える要因となっていると考えられる。

しかし日本人(アジア人)は、他者、とくに家族との関係において、自分の「死」を考える。そういう関係性がある社会。

従って、日本人が「安楽死」を考える場合には、家族間の問題が出てくる。
個人の死、ではなく、家族との関係の中での「死」となる、文化的な難しさがあると。


そういった、「日本人の幸福観」を元に、安楽死の問題は考えていく必要があるのだろうと述べられていた。









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