2022年11月3日木曜日

「死を招くファッション」

「死を招くファッション」という、刺激的なタイトルの本を読んだ。

サブタイトルには「服飾とテクノロジーの危険な関係」とある。



原題はFashion Victims: The Dangers of Dress Past and Present」。著者のアリソン・マシューズ・デーヴィッドさんは、カナダ・トロントのライアソン大学ファッション大学院の准教授だそうだ。なお、発行所は化学同人である。

ファッションが人を殺す?

この本では、ファッション、すなわち身に着けるものや服飾、それらの商品の製造過程などにおける危険やこれまでの被害・・・例えば病原体に汚染された衣服や軍服、おしゃれな帽子を創る職人が曝されてきた水銀、化粧品に含まれる鉛、染料のヒ素など。

写真やイラストも多く掲載されている。イサドラ・ダンカンが命を落とすことになった、彼女の首にまかれていたショールの切れ端(断端は首から外すため刃物で切られている)を見ると、こちらの胸も締め付けられるようだ。バレリーナのエマ・リブリーが身に着けていたという焦げたチュチュは、オペラ座の舞台袖のガス灯の火の燃え移りにより、上演中の舞台で彼女を炎で包むことになったもの。

水銀を使う工程を素手で作業している風景の絵などは、産業医目線で見ると、ああ、こういう状態で多くの被害が出てきたから、今の産業保健があるのだなと思わされる。不思議の国のアリスの「マッドハッター」(いかれた帽子屋)というのは水銀中毒の症状なのか、と腑に落ちる。

文字が多くて読み応えがあり(個人的には、訳文が時々ちょっと固すぎるかなと感じたが)、内容もたまにドキッとする画像を含むので、ある程度、医学や化学の知識、というよりは覚悟(?)がいる本かもしれないが、とりあえず読了後は、「鉛を含む化粧品には気をつけていこう」という気分になった。

とは言え、私たちは今、洋服(和服や制服なども)や化粧品を購入して使う時に、命の危険を賭すようなことはまずないであろう。ここに描かれている時代や事柄から現代に至るまでの、服飾や流通、安全衛生の進歩に我々は大いに助けられているのである。

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