2022年6月16日木曜日

漢方薬の甘草(カンゾウ)と血圧

漢方薬と言えば、なんとなく安全なイメージがあるように思う。

いわゆる西洋薬は、効くけど副作用が怖い、それなら漢方薬でゆっくり体質改善したい、という感じではないだろうか。

もちろん、医療用として処方される漢方薬は、各種試験で有効性が十分に示されており、副作用のリスクも慎重に使うことで基本的にコントロール可能と思われるけれども、

それでもやっぱり、漢方薬にも副作用はあるのだ、と飲む人は知っていなければならない。

有名になったのは小柴胡湯での間質性肺炎だと思うけれど、それより日常的に多くありがちだと思われるのが、漢方薬に含まれる「甘草(カンゾウ)」による偽アルドステロン症。

「偽」とつくくらいだから、嘘、にせ、ということである。アルドステロンとは、副腎から産生されて”血圧を上げる"(ナトリウムを体内に貯留させ、カリウムを排出させる)ホルモンであるが、

甘草(の主成分グリチルリチン)の作用(コルチゾール不活化阻害によるコルチゾール過剰→ミネラルコルチコイド作用)によって、あたかもアルドステロンの分泌が増えてやらかしてしまっているような状態になり、

それに伴うもろもろの症状血圧上昇、低カリウム血症、倦怠感、浮腫などなど)が生じるのである。

甘草を含む漢方薬を、2種類も3種類も、また長期に飲んでいたら、そのリスクは当然高くなるわけである。

もちろん我々処方する医師はそれをわかっていて、処方する漢方薬に含まれる甘草の量や患者さんの血圧に注意しながら薬を処方している(そして患者さんにも説明している)わけであるけれども、

では実際、どのくらいの甘草を内服しているとどれくらい偽アルドステロン症もしくは血圧上昇のリスクがあるのか、ということについては、漢方薬の特性からしてデータの収集や解析が難しく(基本的にどの漢方薬も複数の生薬の配合であるわけだし)、なかなか見積もりにくいのである。

しかしこのたび探してみたところ、そのようなことを文献で調査した論文を見つけた。

萬谷 直樹,ほか:甘草の使用量と偽アルドステロン症の頻度に関する文献的調査.

日本東洋医学雑誌(0287-4857)66巻3号 Page197-202(2015.07)

2015340823, DOI:10.3937/kampomed.66.197

この研究では、甘草の使用量(1日量)と偽アルドステロン症の頻度の関係について、過去の文献(臨床研究)を調査している。偽アルドステロン症については、「そう診断されているもの」というよりも、そこで見られる症状や所見(低カリウム血症、血圧上昇、浮腫)が記載されているかどうかによって病態を推定し、検討されている。(従って、副作用の記述やデータが不十分な報告はすべて除外されている)

その結果、

やはりそもそも報告が少なく、データ等が不十分な論文も多く、また条件が揃わないことなどから確定的な結論には至らなかったものの、

正確な診断に基づいた、より多数例での調査が今後施行されることを願うが、それまでは、甘草1gで1.0%、2gで1.7%、4gで3.3%、6gで11.1%という頻度の推定値を、暫定的な数値として使用することを提案したい。ただし、6ヶ月以上などの長期に使用される場合は、これよりも頻度が高まる可能性がある。」(以上引用)

と述べられている。

要は、頻度としてはそんなに多いわけではないと推察されるが、甘草が2グラム以下だから大丈夫、というわけではないということだ。

実は先日、健診に来られた患者さんの血圧が高く、よく伺ってみると、他院から何種類かの漢方薬をわりと長期間処方されていて、そこにそれなりの量の甘草が含まれていることがわかったため、

念のため、薬と血圧について今度おかかりの先生にご相談下さいね・・という話をしたのである。


"こむらがえりに効く"と、よく飲まれている芍薬甘草湯であったり、

胃腸薬として使われる半夏瀉心湯、

体重を減らしたいと若い女性が飲んでいがちな防風通聖散などなど、

甘草はさまざまな漢方薬に含まれているので、漢方薬を何種類か、しかも毎日飲んでいるような方は、血圧に注意し、気になるむくみなどがあれば主治医に早めに相談することをおすすめしたい。





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