2023年12月21日木曜日

「藤原道長の権力と野望」

ここ数年、大河ドラマを欠かさず観ていた私であるが、今年の「どうする家康」は早々に脱落してしまい、フリーな日曜夜を過ごしていたのであった。
(なぜ脱落したのか?・・は、きっとわかって下さる方々もおられるかと)

ではあるが、

来年は平安時代を描く「光る君へ」だと聞いて、観る気満々である。
今のところ。

だって絢爛豪華、雅な宮廷、平安京の春夏秋冬を画面で追体験(と言っていいのか)できるなんて素敵ではないですか。


ということで予習しようと、まずは
「藤原道長の権力と欲望」(増補版) を読んでみた。

倉本 一宏 (著) 増補版 藤原道長の権力と欲望 紫式部の時代 (文春新書) 



著者の倉本一宏氏は国際日本文化研究センター教授で、この分野の研究の第一人者。

この本は2013年、藤原道長の「御堂関白記」がユネスコ「世界の記憶」に登録されたのに合わせて刊行されたものに、

今回、大河ドラマに対応すべく紫式部の章を追記して、今年新たに刊行されたものだそうだ(もちろん著者は「光る君へ」にも関わっておられる)。
なので購入などする際には、「増補版」とついている方をぜひ。

実は恥ずかしながら私、「御堂関白記」を通して読んだことがなかった、というかない(汗)。
しかし本書では、同時代に、やはり詳細な日記を記していた(みなさん日記を書いて遺して下さってありがとうございます)道長の同僚(というのか)、藤原実資の「小右記」と、藤原行成の「権記」の記述も合わせて時系列で紹介されており、

皆が知る道長の栄華のみならず、
それを取り巻く当時の宮廷や公卿社会の政治の取り引き、陰謀、親王や内親王の婚儀や不遇、道長と三条天皇との確執、物の怪や連続する火災…などなど、

読んでいる我々もまるで当時の人々のように、
「なんでも道長の意向で決まるものだなあ」
などとあやうくSNS、いや日記に書きそうになる。と思う。

藤原道長は確かに運に恵まれたし、また政治的手腕や、人がついてくる社交性や魅力も備えていたのであろう。
1000年経った今でも日本人誰しもが知る「この世をば」の句。
これは「御堂関白記」には記されておらず、同席した実資の「小右記」に記録されているそうである。実資さま記録をありがとうございます。


この世をば我が世とぞ思ふ
望月の欠けたる事も無しと思へば


しかし著者も書くように、
満月は、満ちた次の瞬間に欠け始める。

藤原道長は糖尿病であったようだし、それ以外にも本文中でさまざまな症状が語られている。
また、他の人物、天皇や妃、家族なども、若くして多くが道長より先に亡くなっている。感染症も多かったようだ。もちろんワクチンなどない時代(マスクに相当するものはあったのか?)であるが、解熱薬とか鎮痛薬、下痢止めや輸液もないわけで、苦しむ中で「これは誰それの怨霊・・それとも誰それの邪気のためか」などと考えなければならないのも、それはそれで精神的に辛いことも多かったのだろうなと思う。

ともあれ、絶大な権力を手にして高御座にも上った道長だが、やがて月は欠け、時代は変わりゆく。

この本の「おわりに」にある一節、

”また、道長は確かに、日本の歴史上、最高度の権力を手に入れた。しかしだからといって、最高度に幸福であったかは、誰も知ることのできないことである。”

が、ここに綴られた藤原道長の世界、そして読者の気持ちのすべてを示しているように思える。


なお、著者はこの本の中で、

「道長と紫式部の)二人が幼なじみであったとか、まして恋仲(または妾)であったなどとは、歴史学の立場からは、とても考えられることではないのである」

「ドラマで描かれる二人の像が独り歩きすることを恐れていたときでもあり」

などと書かれているので、来年始まる「光る君へ」でのそういった設定は、眉にツバをつけてエンタメ作品として楽しむべきである。

まあでも平安の宮廷の、おそらく絢爛豪華な衣装と美術を観るだけで私はいいので、美術さん道具担当さんよろしくお願いします(そこか!?


こちらは、通りすがりの東京ミッドタウン日比谷あたり。


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