今回は、摂食障害の患者さんの症例報告である。
症例報告
「低亜鉛血症を合併した神経性やせ症患者の一例」
吉本早奈恵、吉澤篤人、吉澤佳子
日本臨床栄養学会雑誌 45(1):48, 2023
今回報告されたのは、神経性やせ症(Anorexia Nervosa)の女性の患者さんである。
以前から精神的な疾患があったところにコロナ禍もあって不安が強くなり、
食べる量が減り、体重が減少。
おなかの膨満感や吐き気などの症状も加わり、他院に入院。
精密検査をするが消化器には異常がなく、食欲不振と不安が改善しないため今回の病院に転院。
転院時、BMIは10程度しかなかったという(ちなみに、BMIは18.5 kg/m2未満が"やせ"です。10近くとなると大変・・)。
加えて口内炎や脱毛など、亜鉛の不足を疑わせる症状がみられ、検査では貧血と、低亜鉛血症が認められた。
入院後は亜鉛欠乏症に対して薬物治療が開始されたが、血液中の亜鉛濃度はなかなか一定せず。
体重が増えて栄養状態が改善し退院した後も、なかなか血清の亜鉛の数値が増加しなかったとのことである。
そのため、退院後に食生活についての調査を行ったところ、亜鉛の吸収を阻害するような食生活であると思われたため、亜鉛の薬の内服時間を変更するに至ったという、その経緯が報告されている。
神経症やせ症(いわゆる拒食症)では、食事摂取不良から亜鉛が欠乏し、低亜鉛血症を示す場合があることは以前から知られており、
本論文でも「ANの食欲低下、体重減少、気分不安定などの症状は亜鉛欠乏に起因するという考えから亜鉛の補充が推奨されている」と記されている。
亜鉛というと、カルシウムやマグネシウムなどに比べると馴染みがないかもしれないけれど、「味覚がおかしい」とか「皮膚の炎症が治らない」「口内炎ができやすい」などの症状があるときに、医師は血液中の亜鉛を測るかもしれない。
いわゆる普通の食生活をしていれば、基本的には亜鉛は足りなくなることはほぼないので、あまり心配しすぎることはないのであるが、
それでも栄養不足(動物性食品を食べないなど)や病気、他の薬の影響など、何らかの理由で亜鉛が足りなくなることはある。神経性やせ症などのように、極端な食事不足があればなおさらである。
とは言え、実際に
亜鉛が不足している神経性やせ症の人に、どのように、どのくらい亜鉛を補充すべきなのか
という点については報告が少なく、今回の論文はそれについての貴重な情報である。
専門家向けの症例報告であるので、投薬内容など詳細は論文を参照いただきたいが(すみません、リンクはありません)
個人的に一つ気になったのは、論文中では「上腸間膜動脈症候群を合併」と記載されているが、それを示す検査データが示されていないことで(ただし、今回は患者様のご協力が得られず検査できなかったという・・)、今回の症例の情報を一般化するにはさらに情報が必要と思う。
Y先生、貴重なご報告をありがとうございました!
今後ともご指導の程よろしくお願いいたします。
牡蠣は亜鉛が豊富。
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