圧倒的な一冊であった。
12人兄弟。
そのうち6人が統合失調症と診断。
それがノンフィクションであり、実名であり、実話なのである。
[Amazon] ロバート・コルカー著「統合失調症の一族」早川書房
時代は、第二次世界大戦の終わった1950年頃。
コロラド州に移り住んだドナルド(ドン)とマーガレット(ミミ)のギャルヴィン夫妻は、その地で新しい生活を確立していく中、12人もの子どもに恵まれる。
ひとりふたりでも途方もなく手がかかるところを、12人! それも保育所やベビーシッターなどの助けが(ほぼ?)ない中での子育て。
この事実だけですでに驚愕である。
その状況ゆえに、子どもたち一人一人にかける、愛情は変わりなかったとしても、物理的・時間的な余裕は少なくなっていたと思われる。ネタバレになってしまうので詳細は書けないが、兄弟(もしくはきょうだい)の間でのすさまじい争いや葛藤、悲しい別れ、また時代背景もあるのか、ティーンエイジャーで当たり前のように皆使っている薬物やドラッグ。
それを裁き、もしくは裁ききれなかったかもしれないのが両親、とくに母親のミミである。
統合失調症の病因として「統合失調病誘発性母親」という考え方が提出されていた時代であるから、息子たちのために病院や警察との絶え間ないやりとりを余儀なくされていたであろうミミの苦闘、そしてそれでも変わらない愛情の強さが思われる。
一方で、そういった母親に反発する子どもの姿も描かれる。
12人のきょうだいのうち、精神病を発症せず健康であった一人、末娘のメアリー(後にリンジーと改名)は、
兄たちに心身ともにおびえ続け、そして両親に対しても葛藤を覚える日々を長年過ごしながら、
その後、家族の世話や介護などを一手に引き受ける自立した女性へと成長する。
また、この一家も裕福な方であったと思えるが、一家を支えるある家族(富豪)の暮らしぶりがなかなかすごかった。こういうところで支え合えるのはアメリカ的なのかなと思ったり。
この本はそのリンジーと姉マーガレットとが、「自分たちの家族を世間に知ってもらう」という意図のもとに、家族全員の同意を得て著者に情報を提供して出版に至ったものであり、
ギャルヴィン家の家族・親族・関係者、医療関係者および当時の医療記録、またそれと並行して、統合失調症の病因や治療についての研究の進歩、そして日夜努力する研究者の話も語られている。500ページにも及ぶ超大作である。
彼らの提供した情報や各種の貴重な臨床検体、それに今も絶え間なく行われている臨床研究によって、やがてこの病を克服する日が訪れるよう、
そして今日も臨床現場にいる患者さんや関係者、医療従事者の方々が安全で安寧でありますよう、願っている。
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