2022年10月22日土曜日

在宅医療の安全のために

先日、産業医として伺っている事業所の衛生委員会で、「在宅医療の安全確保に関する調査報告書」の情報をいただいた。

一般社団法人 全国在宅療法支援医協会が、全国の会員の訪問診療医を対象に行った、実態調査のアンケート結果である。

このアンケートが実施された背景には、2022年1月に埼玉県ふじみ野市で起こった、訪問診療医射殺事件がある。

今も記憶に新しい、あの衝撃的な事件。在宅医療に関わる医療関係者のみならず、全国のあらゆる医療関係者に大きな衝撃をもたらし、在宅医療に委縮をもたらすのではないかと言われたが、アンケート結果はどうだったのか。

全国在宅療法支援医協会 

今回のアンケートでは、調査対象が約1,000人であったのに対して回答数150件で、回答率は15.4%とあまり高くなかったようだ。

しかし、その中で

「理不尽な要求やクレームからのトラブル」は、「毎年ある」「数年に一回程度」を合わせると86名(57%)の訪問診療医が経験。内容で最も多かったのは「医療処置や処方・入院先について」で23件(24%)、次いで「嫌がらせ行為・威嚇・恐喝」が20件(21%)。

次いで、「身の危険を感じるような経験」は、「毎年ある」「数年に一回程度」を合わせて、52名(35%)。「ごく稀に」が34名(23%)あるので、合計すると半数近くが、何らかの「身の危険」を感じたことがある・感じている、ということになる。

その具体例は、「乱暴な言葉・怒鳴る・暴言」「精神疾患の患者・家族」「ハサミ・刃物による脅し・暴力行為」「暴力や物を投げつけるなどの行為」と続く。「長期間患者宅に軟禁」「脅迫電話」も、あると答えた回答者がいる。宗教団体や右翼団体を背景とした度しもあったようだ。

その他、予防対策や国への要望などについても調査されており、今後の在宅医療、ひいては高齢者医療全体のあり方について考えさせられる結果であった。


ほとんどの在宅医療においては、医療関係者と、患者さんおよびご家族との間の相互の信頼のもとに、患者さんの健康維持やQOL向上を目指して行われているはずである。

超高齢社会が進むにつれて、在宅医療はますます医療行為の中で重みを増してくると思われるが、そこには、医療施設での医療行為とは異なる、在宅という特殊性があり、その一部には上に記載されたような危険性をはらむものも含まれているのが実情であろう。

地域の特性、精神疾患や認知症の性質、また医療行為や加齢・生命に対する理解の程度など、いろいろな問題が絡み合い、解決にはさまざまな窓口や専門的な対応が必要になるであろうが、医療者の安全を確保しつつ、患者さんやご家族が納得できる医療をどのように提供していくか、お互いの立場からつねに考えていく必要がある。


なお、現在は、医療者と患者さんとの間で信頼関係が持てない場合には、診療を拒否できるとの厚労省からの通知がある。別件だが、先日、任天堂は、カスタマーハラスメントがある場合には、そのカスタマー(顧客)の修理依頼を断ると明記したとのニュースが話題になっていた。

任天堂が修理サービスの規定に“カスハラ”対策を明記して反響 「従業員も笑顔でいるためのルール作りが必要」

クレーマーや、難癖をつける(そしてそれを動画に挙げる)人間がなぜかもてはやされる最近の風潮を、改めていく一歩になればと思う。

また、人間はいつか、老いて亡くなるものである、ということを、皆が理解し受容することも、とても大切であると思う。



0 件のコメント:

コメントを投稿

人気の記事