先日オンラインで出席した学会の研修で、面白そうな論文が紹介されていたので、ばばっと読んでみた(いや"ばばっと"じゃなくてちゃんと読まないと>自分)。
今年4月に発表された、natureの論文である。
Melanie S. Brucks & Jonathan Levav
Virtual communication curbs creative idea generation
Nature volume 605, pages 108–112 (2022)
Virtual communication curbs creative idea generation
直訳すれば
「バーチャルなコミュニケーションは、創造的なアイディアの発出を妨げる」
といったところか。
非対面のオンライン会議や講義では、クリエイティブな発想はしにくくなりますよ、というタイトルの論文だ。
ううむ。そうかなあ。
と思いつつ読んでみると、
実験は大きく2つの段階に分けられ、オンラインのシチュエーションや、実験を実施する場所(国)も複数設定した上で行われていた。結構な規模である。
以下、詳細な評価法や検定は省略して、概略を紹介。(詳細は原文を参照して下さいね)
1 研究室内での実験
1-1) 被験者602名をランダムに二人組にし、対面グループとオンライン会議グループにランダムに振り分け、それぞれで、"ある製品に対する新たな使用法"を発案してもらい、出てきたアイディアの数を数えた。さらにその中で、"最もクリエイティブなアイディア"を選んでもらった。
その結果、
オンライン会議のグループの方が、発想したアイディアの総数も、クリエイティブなアイディアの数も少なかった。
しかし、選んだアイディアの「質」を比べると、オンライン会議の方がむしろ良い(より評価の高いアイディアを選択した)結果であった。ただし、発想したアイディアの数で調整すると、その差は有意ではなかった。
1-2) 上記のオンラインまたは対面を行う研究室内に物を置き(一部は棚などありふれた物品、一部は予期せぬもの、例えば人体骨格のポスターとか(私が以前大学に勤めていた時は、研究室にガイコツの模型を普通に置いてたしゼミ生の皆さんも喜んでガイコツで遊んでいたような気がするが、あれは"予期せぬもの"扱いであるべきだったのか汗)を設置)、上記と同様のアイディア検討時間の後、被験者それぞれに、部屋の中に何があったかを思い出してもらった。また、被験者の視線がどう動いたかを調べた。
その結果、
オンライン会議のグループでは明らかにお互いの被験者(つまり、画面)を見る時間が長く、周囲を見わたす時間は少なかった。
そして、「予期せぬもの」を思い出せるかどうかと、室内をどのくらい見ていたかが、クリエイティブなアイディアが出た数と明らかに関連していた。
つまり、オンライン(バーチャル)な会議では視覚的(もしくは認知的)なフォーカスが狭くなり、それがアイディア創造を妨げた可能性がある。
2 フィールド実験
上記1の実験は、あらかじめ決まった室内という限られた環境だったため、次の実験として、5カ国(フィンランド、ハンガリー、インド、イスラエル、ポルトガル)から1,490名のエンジニアの参加を得てランダムに振り分け、対面またはビデオ会議によって、上記と同様に、新製品のアイディアを出してもらった。
その結果、
この実験でも1と同様に、バーチャル(オンライン)会議の被験者の方が、アイディアを出した数は少なく、選択するアイディアの"質"についても1と同様の結果となった。
そしてその結果に、5つの異なる実験場所(国)による違いは見られなかった。
ということである。
以上の所見となった理由は明らかではないけれども、
実験では、オンラインよりも対面で話したグループの方が、アイディアが出るにつれて「話が飛ぶ」ことがやや多くなっていたというのは興味深い。
それは何となくわかる気がする。
画面を見つめ、ヘッドホンやマイクをつけながらオンラインで講義やら会議やらやっているときに、あまり「余談」とか「脱線」とかはしない、というかできない、ような気がする(個人的な感想ですが)(え? こないだオンラインで話が脱線してた? 私が? いやそれはちょっと)。
そしてその要因として、「ずっと画面という一方向を見ているから」というのも個人的には納得できる。視線を変えたり、授業であれば学生、学会であればフロアーの参加者を、直接見ながらその反応によって表現を変えたり、違う話題を振ってみたり、という、いわば臨機応変な対応が、オンライン会議ではちょっとやりづらい感じがするのだ。
何かうっかり言ってオンラインですべったらちょっと・・・いやかなり恥ずかしい気がする、のはなぜだろう。ていうか教室内だったらすべってもいいのか>自分
ただし、実験の結果の具体的な数値を見てみると、上記の「アイディアの数」とか「質」の結果の数値に、何倍も違いがあるわけではなかったようだ。なので、「クリエイティブな発想ができるかどうか」の差として、そんなに大きいものではないのではないか、とも思う。
オンラインならではの利点、つまり、移動や時間帯の関係で本来なら参加が難しい会議や講義にも、多くの人が同時に参加できるということを考慮すれば、そこには数値化できない隠れたメリットがあるはずで、今回の実験結果についても、オンライン側への多少の加点となるのではないか。
「オンライン授業における効果的な雑談」とか、全国の教員の皆様と相談してみたい(違う)。
0 件のコメント:
コメントを投稿