林智裕著「『正しさ』の商人」(徳間書店)を読んだ。
著者は、福島県出身・在住のジャーナリストである。
サブタイトルに「情報災害を広める風評加害者は誰か」とある通り、
これは近年、特にSNSによって爆発的に広がり、その弊害がおさまる気配のない「情報災害」について述べ、
そしてその原因となっているもの、すなわち、いわゆるデマを蒔き散らかすマスコミや政治家などを(実名で)告発し、問題提起している一冊だ。
中心となっているのは、著者が見続けている福島の原発災害に関わる問題である。
多数の実例によって、マスコミがいかに、「福島」ではなく「汚染され、危険なフクシマ」というイメージを先行させたく、それを煽ってきたのかがよくわかるが、こうした報道に多くの世論(?)が不安を覚え、惑わされてきたかを想うと頭が痛くなる。
"これら人災とも言える「情報災害」発生・拡散の中心が自分達の支持層である以上、共産党を含めた野党には重大な責任がある。"(本文より引用)
”「当事者性」を乗っ取って利用するには、訴える被害は「それが事実であろうとなかろうと構わない。より悲惨でセンセーショナルに喧伝される方が利用価値は高く、好都合だからだ。/ 逆に、科学的知見に基づく正しい見方は直視されず、黙殺される。なぜならこれが浸透し、問題が真に解決されてしまっては「被害者性」が損なわれ、利用価値も減ってしまう”(同)
このような事例は福島原発事故に限らず、HPVワクチンについての一部活動家や政治家および政党の反ワクチン活動や、
最近でもコロナウイルス感染症に関わる反マスク、反ワクチン、「コロナウイルスは存在しない」主張、専門家への執拗な誹謗中傷などで、顕著に見られるのは周知の通りである。
マスコミ報道には、「それをこう報じたい」という意図があり、SNSには、「自分の主張と合う情報だけを集めることができる」という特性がある。例えば本書で記載されているように、マスコミに登場する「地元の代表」などという人々は、恣意的に選択されて意見を述べている、あるいはマスコミの言いたいことに合う人が「代表者」に選ばれている、ということなのだ。そういったことを常に念頭に入れてから、世間に溢れる情報に接していかないと、人類がこれまえ蓄積してきた歴史上の事実や科学的知見をあえて無視する形で、デマや陰謀論などが跋扈することになりかねない(すでにそういった主張をする人々が議席を得るなど、一部そうなっているかもしれない)。
内容としては大変濃いもので、他に類を見ない、まさに福島からの発信として貴重な情報であると思う。
ただ文章としてはやや読みにくい部分があり、例えば「情報災害」の定義が複数個所に見られるなど、若干整理してもよいのではないかと思えるところもあった。
SNSで専門家叩きをしている人々や、「被災者/被害者に寄りそう自分」という居場所を確保したことで何か得たようになっている人々には、敵意しか沸かない内容であるかもしれない(実際この本の著者の林氏も、嫌がらせ、恫喝、誹謗中傷などを受け、また政治や行政も力にはなってくれなかったという)が、
そうではない(と信じている)私たちこそ、こういう本を読み、専門家の知見を得るように努め、これからの社会を透明なものにしていきたいと思う。
楢葉町の風景。
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