時々、医局の自分の机で、積まれた紙類が崩落しそうになるので(汗)ちょっとだけ片づけたりすると(※エントロピー増大の法則は私の机において常に真である)、「積ん読」になっていた文献やら書類やらが発掘されたりする。
これは、前にタバコと筋力の関連について少し調べていたときに見つけて、コピーしておいた論文だ。
「14日間の禁煙で筋疲労耐性が改善し、全身性炎症マーカーも回復する」
Darabseh MZ et al, Sci Rep 11:12286; 2021
ということで少し読んでみた。
(面倒な方は下方のマーカー部分まで読み飛ばして下さい)
まずは今回の研究の背景として:
タバコが無数の、毒性・発がん性のある物質を含んでおり、それにより健康を害することは広く知られている。さらに、喫煙によって全身性の炎症や酸化ストレスが生じ、動脈硬化を促進し、脂質代謝異常や糖代謝異常を起こす。
加えて、喫煙は呼吸機能に加えて筋肉の機能も低下させると言われている。
そのメカニズムとして、タバコに含まれる一酸化炭素(CO)などのために組織への酸素供給が低下する、COがヘモグロビンと結合し(COHb)酸素がヘモグロビンから離れにくくなる、またタバコに含まれるCOやシアン化物質がミトコンドリアを直接障害する、などが挙げられている。
そこで今回は、禁煙することで上記の「全身性の炎症」や「COHbの増加」などが改善すれば、筋肉の機能(筋疲労耐性)も改善するのではないか?という仮説のもとに実験が行われた。
その実験とは、
・現在喫煙している人(男性28名、女性20名)と、非喫煙者(男性23名、女性15名)が参加。年齢は18-44歳
・問診、身体測定、呼吸機能検査(スパイロメータ)、筋収縮・筋疲労耐性測定(椅子型ダイナモメータ使用)、血液中の各種因子(炎症性サイトカイン、酸化ストレスマーカー)測定。喫煙者については、14日間の禁煙の前後でこれらを測定
ちなみに椅子型ダイナモメータでは、被験者は股関節、膝関節、骨盤の位置などを指定されてすわり、筋力や、筋収縮による筋疲労耐性を測定(今回は右大腿四頭筋で測定)。
・上記にて、吸わない人・喫煙者(喫煙中)・喫煙者(14日間の禁煙後)の各パラメータを比較
ということのようだ(詳細は原文もしくは関連文献参照)。
少人数、短期間の禁煙という制限はあるけれども、上記の実験で
・喫煙している人では、呼吸機能(最大呼気流量PEF、1秒量、努力肺活量)が非喫煙者よりやや低く、これは14日間の禁煙では変化なし
・14日間の禁煙後、筋の疲労指数fatigue index(%)(等尺性筋収縮後のトルクの開始時トルクに対する比)が上昇=疲労耐性上昇
・喫煙者では血液中のカルボキシヘモグロビン、AGEs・MDA(酸化ストレスマーカー)やTNFa, IL-6などの炎症マーカーが非喫煙者より高値
・14日間の禁煙で、上記のうちIL-6などいくつかの炎症性マーカーが非喫煙者と同じ程度まで回復。TNFaも回復傾向。ただし酸化ストレスマーカーは回復せず
・・・まあ論文のグラフを見てみると正直、まだ人数が少ないしなあ、という感じはあるものの、
まとめると、
短期間でも禁煙すれば、タバコの筋肉への悪影響や、タバコが起こしている全身の炎症が、少し回復するかもしれない。ということで、
とりあえず禁煙することで、それなりに筋肉にとっても良い効果が見えてくるようだ。
が、
2週間禁煙できたのなら、もっと禁煙を続けられるのでは??
と言いたい。
いやぜひそのまま禁煙して下さい。(心の声)
その上で、またデータを蓄積していただきたいです。
なお、タバコを長く吸っていると、「肺の生活習慣病」COPDになる可能性が高くなります。これを読んで下さった方は、まわりの喫煙者のぜひ禁煙をお勧めください。
COPDについての情報 COPD-jp.com
なお、毎年11月の第3水曜日は世界COPDデーだそうで、今年ももうすぐである。講演会などが行われる様子。これを機会に、ぜひ禁煙を。
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