2022年9月23日金曜日

「マクロプロスの処方箋」

カレル・チャペックの戯曲、「マクロプロスの処方箋」を読んだ。

久しぶりの岩波文庫、久しぶりの戯曲である。

カレル・チャペックという名前は、最近ではなぜかすっかり「紅茶」を連想するイメージになってしまっていた(ごめんなさい(汗))が、れっきとした作家であり、劇作家であり、チェコの人である。「ロボット」という言葉を作ったと言われる人だ。

そのチャペックが1922年に発表したのが、この「マクロプロスの処方箋」。なお、この題名は、本邦での初訳以来いくつも変遷してきており、「処方箋」という言葉を用いたのは2022年訳の本書、阿部賢一氏の訳によるとのことである。


構成は、第1幕、第2幕、第3幕、それに「変身」と題された最終幕。舞台は、本書刊行の1922年、ある弁護士事務所から始まる。そこで語られるのは、もう100年も続いている、数代にわたるグレゴル家とプルス家の間での裁判。それがようやく判決を向かえそうだ、というその時、弁護士事務所に、ある一人の人物が現れる。

その人物は、なぜかこの長い長い裁判について、不思議なことを語りだす。それによって裁判が意外な方向での解決に向かいそうになるが、なぜその人物がそれを知っているのか、その謎を明らかにするために「模擬裁判」が開かれることになり、その場で、恐るべき「処方箋」の存在が明かされる。


スリリングで謎めいていて、くっきりとした人物造形、それに底流をなしている、人間の生命に関わる重大なテーマ。思わず一気に読み進めてしまった。この戯曲が、初演以来各国で好評を博したというのもうなずける。原作から少し内容が削られているようではあるが、ヤナーチェクによってオペラ化もされている(今度見てみようかな)。


こういう生き方は、果たして望むべきものなのか。その答えは、おそらく結末に示されているのだろうと思う。

秋の日の読書の一冊に、お勧めである。


"自分という作品を完成できず、自分という見本を残すこともできない。ちゃんと生きるよりも早く死んでしまう! ああ、どうして私たちの人生はこんなに短いのか!"(本文中より引用、ある人物のセリフ)





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