2024年8月17日土曜日

内藤コレクション「写本 いとも優雅なる中世の小宇宙」

連日の猛暑に台風、地震。そしてもちろん仕事やら家庭の事情やら何やら。

そんなこんなで、気づけば8月ももう半ば・・・

まずい! このままでは見逃してしまう!!

と思って、

台風の後のフェーン現象で猛烈に暑い、「不要不急の外出を控え」るべき東京ではあったが、今日は1日休みだったのでがんばって上野へ。

国立西洋美術館の写本展を見るためである。会期が今月25日までなのだ。ふー。

さすがに暑いので朝に家を出て開館まもなくの入館を目指したし、

「まあモネとかゴッホとかじゃなくて写本だからな。それにこれだけ暑いしな。そんなに混んでないだろ」とやや甘く見て行ったのであるが、


皆様、やっぱり写本好きでしたよね・・・


と思うくらいにはすでに人がいた。
英語でチケットを買っている外国人の若い女性も。一人でこの企画を見に、西洋美術館まで来た様子。


今回展示されているのは、筑波大・茨城県立医療大学の名誉教授であられる内藤裕史先生(筑波大学で麻酔科の教授として勤務されていた時代、麻酔や中毒についてご指導いただいた先生!)が学生時代から数十年をかけて海外で買い集めたコレクション。
内藤先生から西洋美術館に寄贈され、整理や学術的調査を経て、そのほとんどが今回展示されているという。その数、なんと150点ほど。

印刷技術がまだない中世、 13世紀から16世紀頃にかけて,主には修道院、あるいは世俗で、獣皮紙に描かれた文字と彩飾の極美の世界。
祭礼や祈祷、式典などにも用いられ、いま保存されているものが断片であったとしても、その時代の手作業や礼拝の様子、あるいはこれを手にした人の信仰までが伝わってくる一枚一枚。

もちろん展示は一つ一つが小さいので、あまり混むと作品が見えないと思われる(それほどには混んでいなかったのでなんとかなったが)。それに細かい文字などを見ようとすると、これは調節力の落ちた(いわゆる老眼の)視力の人には辛かろうという感じ。中には小さな望遠鏡を持参している人もいた。

とは言え、やはり直に見る写本は「いとも優雅なる中世の小宇宙」という、この展示のタイトルそのものだ。

リュソンの画家(彩飾)時祷書零葉
フランス、パリ
1405-10年頃


時祷書零葉
フランス北部、おそらくアミアン
1430-40年頃

とても人間業とは思えない細かい作業・・かもしれないが、電気照明などない中でこれに一文字一文字対峙していた時間、修道士や修道女たちは確かに神と会話していたのだろうと思える。


また、断片的に存在するこれらの零葉から、内容はもちろん、年代や地域、元の本の共通性などを明らかにされた研究者の皆様の成果に感嘆した。こういう、"ただちにおカネにならない"研究こそが本来の研究の醍醐味だとも思えるし、「選択と集中」とかなにやらでこれ以上、こういった研究分野をおろそかにするようなことがあってはならないと思う(最後、やや愚痴が入りました)。


内藤先生は長年のコレクションを2015年度に西洋美術館に寄贈したが、その後に購入した小さな一枚のみ手元に残して、デスクの上に飾られているのだという(その一枚も今回"最後の一枚"として展示されていた)。
なんとなく。私もこれからまだ10年か20年か・・をかけて、「最後まで手元に置きたい何か」を集めることができるかなあ、と思った。


写本の絵葉書やしおりなど、ちょっとだけお土産を購入。これからしばらくはリュソンの画家の描いたという「受胎告知」の絵の入った写本しおりを、読書の友としようと思う。



 

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