2023年11月19日日曜日

「楡家の人びと」

先月、用事があって梅ヶ丘近辺を歩いていたところ、

通りがかりにたまたま、「都立梅ヶ丘病院」跡地を示す石碑を見つけた。

下の写真の奥の方が、東京リハビリテーションセンター世田谷の敷地。
手前にある、世田谷区の「うめとぴあ」との間で広場のようになっているところに、ひっそりと石碑があった。


近づいて見ると、斎藤茂吉の言葉と、梅ヶ丘病院の沿革が刻まれている。
(東京リハビリレーション世田谷のHPに詳細が記載されています)



「茂吉われ院長となりいそしむを 世のもろびとよ知りてくだされよ 茂吉」


刻まれた文字を眺めていたところ、ふと、「楡家の人びと」を読みたくなった。

そこで早速第一部から読み始めたら、第三部まで一気に読んでしまった。
やはり面白い。


「楡家の人びと」は、いわずと知れた北杜夫の小説。

北杜夫が、トーマス・マンによる小説「ブッデンブローク家の人々」の影響を受け、自分の家族(青山脳病院を設立した祖父 斎藤紀一、およびその一族)をモデルとして書いた長編小説である。

斎藤紀一が養子(娘の婿)にしたのが、歌人・精神科医である斎藤茂吉、その子どもとして生まれたのが北杜夫(斎藤宗吉)。

「楡家の人びと」では、青山脳病院をモデルにした「帝国脳病院」に関わる院長一族、職員、患者、そして「脳病院」を取り巻く地域の人々が、
大正から昭和という激動の時代、すなわち戦前、戦中そして戦後のさなかで、
どのように生まれ育ち、どう暮らし、生きていったのかを、輻輳する視点や当時の資料を詳細の用いた記述によってダイナミックに描いている。

読んでいくと、子どもの遊びや風俗、都心部の風景、また戦地の前線の様子なども含めた昭和史として、さらには精神科医療の貴重な記録として、大変興味深かった。
それに登場人物の人物像の造形がどれも際立っており(今の言葉でいうならキャラが立っていて)、どの人物の言動にも共感できる部分があるなど、この小説がNHKでテレビドラマ化されるなど人気だったことに(昔のドラマで、現在配信もされていないので私は観ていないが)改めてうなずける。

ただ、小説の中で「戦前」の状況が描かれているところで、これは・・令和の今、同じようなことになっているのではないか? と感じたりもした。そうでなければよいが。

新潮文庫(第一部)

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