2023年1月8日日曜日

「奈良時代 律令国家の黄金期と熾烈な権力闘争」

あをによし寧楽の京師は咲く花のにほふがごとく今さかりなり

万葉集巻三、太宰少弐小野老朝臣の歌である(引用元:佐佐木信綱 校・訳、万葉集現代語訳付、やまとうたeブックス、Kindle版)

「奈良時代」と言われて万葉集を思い起こす人は多いだろう。
私もである。
「籠もよ み籠もち」とか「熟田津に」などの歌が好きで、「あをによし」もそうだがなんとなく、奈良時代と言えばおおらかで天平文化が花開いて仏教が・・というようなイメージを持っていた。

そんなところに、たまたまこの本を知り、早速読んでみた。長年、奈良時代・藤原氏を研究してこられた木本教授による新書である。

いやこれ面白い。



奈良時代について、ふわっとした「おおらかな」イメージしかない私のような歴史オンチ(?)が読んだなら、そのイメージが吹き飛ぶ(?)こと請け合いである。

なんとなく「聖武天皇? 光明皇后? 施薬院とか作ったし良いんじゃないの」程度に思っていた私でも、読み終わる頃には著者の見解通り

「聖武天皇、しょーもない」

(いえ、決してしょーむないと言いたかったのではないです!! ホントです!!)

とか思っているのである。
あと「藤原不比等の13人」とか大河ドラマにならないかな(いや13人じゃ足りないか)とか思い始めたりもしているのである。

しかし、

この本で述べられているのは、優雅な天平文化の話ではなく、天智天皇の皇統と天武天皇の皇統のせめぎあい、そして天武皇統が断絶して天智天皇系に移ることになる背景となる歴史上の出来事というか事件の数々、すなわち、藤原氏や大友氏などが関わっての熾烈な権力闘争なのである。

血統が重要なので近親婚が多く、読んでいて血縁関係が混乱してくるし、似た名前が多くてしかも途中で改名したりするので、「この麻呂はどの麻呂でおじゃる?」と突然脳内おじゃる丸(いや、おじゃる丸は奈良時代ではなくてヘイアンチョウ・・)が出て来たりしがち(※個人の感想です)。巻頭に「関係略系図」があるので、それを常に参照しながら読むのであるが、登場人物が多いので、系図には記載がない名前も多い。あと「渤海ってどこだっけ」とか知識を試されたりもする。

奈良時代には多くの陰謀や策略が渦巻いていたことがよくわかるし、膨大な研究資料に基づく、まるで今起きている政治の出来事を生々しくみているかのような描写が圧巻である。
何せ不倫あり、呪詛あり、謀殺あり、ハラスメントありで、なんだこいつは・・とか、いわゆる高貴な家に生まれたのみなんて不幸な(泣)・・と気の毒になったりとかしながら読んでしまう。

著者は、天武天皇の皇統が断絶したのは、聖武天皇・孝謙(称徳)天皇親子が、後継に関する責任を果たさなかったからだという見解を示している。いずれにしても、この親子亡き後、平城京は廃され、奈良時代は終わりを告げることになるのである。

そのうち、改めて奈良を訪れてみたくなる一冊、かもしれない。








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